医学部留学

未来を切り拓くのは、いつも留学です。 *1【医学部特集】

かいたひと

奈良和樹、東北大学医学部医学科

三年次に基礎研究をはじめ、以降ずっと学業のかたわら基礎研究を続けている。

今現在のテーマはエピゲノム。

 

留学形式:基礎医学修練

留学先の国:アメリカ合衆国

留学先機関:National Institutes of Health, NIDCR

所属研究室:分子病理学分野 (堀井明教授) ⇒ 生物化学分野 (五十嵐和彦教授)

 

はじめに

東北大学医学科のプログラムの一環で、アメリカのNational Institutes of Health (NIH), Yoshihiko Yamada研究室に留学してきました。

 

正直な話、僕の留学は一年近くも前のことなので、事務手続きなどについては直近で留学した人に聞いた方がいいでしょう。特に東北大学には留学してきた人がゴロゴロいるので。

しかし、プログラムの特殊性ゆえかどうかはわかりませんが、自分の経験を文字にすることで伝えられるメッセージがあると考えたので、この記事を書かせていただきました。

図 1 NIH名物、Building 1。実際はこのほかにも数十の建物が存在し、まさに生命科学研究の拠点である。写真では伝わらないのがもどかしい。

Q. なぜ留学したか。留学のメリットは何か。

そもそも物見遊山に終わってしまわないか?

 

大学に入学してからしばらくは真面目な生活を送っていました。講義のメモはキチンと取り、出席もキチンとして。高校生のころから漠然とした学問の世界に対する憧れがあったから、あまり遊ばずに勉強を積み重ねていました。

 

ただ、机の上での勉強を積み重ねていくうちに『これって本当にやりたいことか?』と疑問を感じるようになりました。その理由は、試験勉強や一人での勉強は現実にはまったく触れない、からです。理論物理や数学などの学問ならまだしも、ほとんどの生物学は実験してナンボ、机上での勉強ではアクセスできる領域に限界があります。

 

この限界に直面し、自分の想像していた世界と微妙に違う世界に不満が募っていきました。後になって考えれば、この時どこかの研究室の扉を叩いておけば良かったのですが、自分の腰が重い性格が災いして実行に移せずいました。

 

そんな中、免疫学の教授が世界一の基礎生物学研究機関*2への留学を募集しているとおっしゃりました。基礎研究の最先端でならば自分の見たい世界が見れるかもしれない、とすぐさま先生のところに飛んで行って話をすると、こころよく受け入れていただくことが出来、晴れて留学することが出来たのです。

 

つまり、僕は研究をするために留学をしました

 

さて、そうすると出てくるのが『日本で研究はできなかったのか?』という疑問です。研究したいんだったら日本でいい。実際、研究留学は、日本で鍛錬を積み、PhDを取った方が更なる研究の発展を求めて行うのが常です。ですから、まず入門者は日本で修練を積むべきだ、という考えの方の方が多いと思います。

 

しかし、僕は研究のことがわからないペーペーでも研究留学する価値があると思っています。あの時に、留学によって研究の世界に飛び込むことが最善だったな、もし留学していなかったらいまも研究を続けていなかったな、と思うのです。なぜなら海外で研究ことはじめをすることに大きなメリットがあるからです。

 

まず、留学することで研究にのみ専念できる環境を得ることができました。何かに入門するためには、ある程度のまとまった時間を取る必要があるのは言うまでもありません。しかし、日本にいるとさまざまな誘惑があります。たとえば、アルバイト、友達との飲み会、サークル、などなど。留学することでこういったものから距離を取り、研究に充てる時間を確保できた。もし日本にいたら、何かと理由をつけて、誘惑に手を出して、基礎研究のことをよくわからずに、魅力を感じないまま中途半端に終わっていたと思います。

 

そして、オープンな国で研究できたのも大きかった。日本で研究していると、自分のテーマと周辺領域に対する勉強に集中しがちです。その理由は、日本はまだセミナーの数が少なく、また、セミナー自体もかなりクローズドなものが多いからです。自身の専門に集中できる環境は、実際のところは悪くはない環境なのですが、勉強の息苦しさにうんざりしていた僕にとっては、NIHでの数々のセミナーが、研究の世界は多数のアプローチを持つということ、研究は奥深く・広大であること、を教えてくれました。

 

まとめます。

A. 研究がしたくて留学した。

日本におけるコミュニティから隔離されたため、研究に集中することができた。

また、アメリカの気質がその時の自身の気分にあっていたため、留学することで研究を好きになることが出来た。右も左もわからない学部生が研究留学する意味は充分にある。

 

 

Q. NIHとは?留学するメリットは?

 

正式名称はNational Institutes of Health, アメリカ国立衛生研究所です。衛生、と研究所の名前にはあるのですが、実際には基礎医学の研究者が多いです。衛生学と基礎医学ってどう違うねん?という疑問は『社会医学 基礎医学 違い』で検索してみてください。

 

NIHを留学先に選ぶメリットは、第一に領域のトップがたくさんいること。

たとえば、僕の留学先ラボの隣のPIはイメージングの大家でしたし、別の棟にはmtDNAの発見者、、、こういう生ける伝説と会えることが大きいです。若干ミーハーで物見遊山的ですが、会うこと自体が研究のモチベーション上昇につながります。

 

また第二に、自分と同世代の若者がたくさんいます。Undergraduate schoolを卒業したあと、医学部に入学するために、Post-bacとして活動している人がいたり (推薦状のため)。

また、大学院生のときにNatureを書いたポスドクがいたり、Harvardの医学部に行くんだよーと言ってる同年代がいたり、、、すごかったなぁ。やはりNIHは世界レベルの機関なので、同世代の”すごいやつ”もたくさんいます。もし、世界レベルで戦いたいと思うのなら、こういう人たちを一度見ておくといいかもしれないです。モチベにも危機感にもなります。

 

日本人がたくさんいるのもメリットです。NIHはかなり日本人コミュニティが充実しているので、色んな先生と話させていただく機会があります。運が良ければ、その方のキャリア形成・人生を教えていただくことができます。人生の中で幸福になるためにはロールモデルを持つことは必要不可欠であり、NIHでの経験が人生のロールモデルを提供してくれることは間違いないでしょう。

 

最後に。NIHではサイエンスに関するセミナーが毎日どこかで行われています。そのほとんどは難しくて理解できないものばかりでしょうが、内容は理解できなくても外見は真似できます。良い意味での自己主張・表現が強い国で生き残っていくために、いかにうまくプレゼンをするか、スライドを作るか。そういったことが大変参考になります。

 

まとめます。

A. NIHは基礎生物学研究機関のトップ。ここには、トップサイエンティストが集まっているので、学問・プレゼン・人生について学ぶことがたくさんある。

 

 

 

 Q. どんな研究をしたか?

 

人は状況に応じて自分の行動を変えます。気温が高ければ薄い服を選び、雨が降っていれば傘を持って出かける。我々は状況に応じて行動を変化させることで、より快適・効率的に生きることを可能にしています。

 

この『状況に応じた行動の変化』は細胞レベルでも存在します。たとえば、ひとつの細胞に注目したとして、エネルギー源が少ない状況におかれているならば、活動を抑えてなんとか生き残ろうとします。逆にエネルギー源が豊富に存在する状況ならば、活動を活発にし、増殖を開始します。やはり、エネルギー源に応じて行動を変化させることで、効率的に生存しようとしているわけです。

 

上の例ではエネルギーを出しましたが、実際には数千もの因子が状況を規定します。この中に、細胞外基質 Extracellular matrixが存在します。コラーゲンとかヒアルロン酸とか呼ばれるアレです。ある細胞外基質Aが10 %存在して、Bが15%、、、というように構成成分が決まって、状況が規定されると、細胞は合わせて自身の行動を変えます。

 

自分はPerlecanという細胞外基質が細胞に与える役割について検討してきました。

 

A.『細胞外基質による細胞制御機構の解明』

 

 

 

私はなんのために留学するのか?

留学を志す学部生はこの質問を常に問い続けておくべきです。自分の留学を実りあるものにするために。想像よりしんどい留学の中で、目的がしっかりとした信念となり、あなたを支えてくれるはずです。


最近よく聞くんですが、語学留学という目的は僕はオススメしません。英語を学びに留学というものもそう珍しくない時代になりました。だからこそ、海外に行くことで、海外でしか得ることのできない何を得たいのか、をしっかりと言語化しておくべき。逆にそういうモチベーションがないのであれば、留学しないほうがいいかもしれません。

 

おわりに

書いてみて随分と主張の強い記事になったなぁ、と思いました。

まるで三年とか五年留学してきたようですが、自分はたった三か月留学してきただけですので、これがもっと長くなればいろいろと変わるのかなぁ。

 

医学部にいると、研究に対して向き合う時間を取ることなく卒業していきます。自分より遥かにスマートであろう友人・後輩・先輩に『研究しないんすか?』と聞くと『私は研究は向いていないから』と答えられてしまいます。けれども、彼らは研究に対する時間をしっかりと取ることなく、その判断を下していることが多いのではないか、と僕は思うのです。

だから、海外という環境に自身を隔離して、自分の研究に対する感情・気持ち・考えをスクリーニングしてみるのはどうですか?という提案で、本稿を〆させていただきます。

図 2 留学終了時にいただいた寄せ書きとCertificate。今でも自宅に飾っている。

余談

 

さて、NIHはすごい!領域のトップがたくさんいる!とは書きましたが、東北大学もCRISPR-Cas9の開発者ダウドナ先生がお越しになる機会があったり、教授の先生方も領域のスペシャリストですので、我々がどう行動するか次第な気もしますが、、、

ただ、一旦海外に行って戻ってくると、自分のいるところを客観視できるとも言いますので、そういう意味でも留学は良いかもしれませんね。

 

最後になりましたが、東北大学の分子病理学分野の先生方、基礎医学修練をともにした仲間たち、NIDCRのYoshi研の先生方に感謝を申し上げます。加えて、このサイトを運営している同級生にも。

 

また、今現在自分はラボを変え、東北大学の生物化学分野にて研究をしているのですが、まだまだ未熟な自分を日々サポート・教示してくださる先生方に感謝を申し上げます。

 

*1 タイトルはhttps://rakuzanet.jp/megatori/?key-word=%E7%95%99%E5%AD%A6で作成しました。昔はホットエントリメーカーという便利なものがあったのに、、、

 

*2 諸説あります

 

*3 諸説あります

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